世界最大のステーブルコインUSDT発行企業として仮想通貨ファンにおなじみのテザー社。意外と知られていないが世界の暗号資産の取引全体で、ドル建てUSDTが占める割合は8割だ。ステーブルコインのみならず暗号資産の雄といっても過言ではない。

コインテレグラフでは今回、テザー社のパオロ・アルドイノCEOに直接取材。かつてはミステリアスなイメージがつきまとっていたが、情報公開と規制当局との連携に積極的だ。

アルドイノCEOは今回のインタビューの中で、競争の激しいステーブルコイン市場でテザーが直面している課題や2024年の暗号資産業界の展望を語ってくれた。

コインテレグラフ:米資産運用大手ヴァンエックが最近のレポートの中で、2024年中にUSDCがUSDTを逆転するとしている。より多くの機関投資家や新しいレイヤー2チェーンがUSDCを選好しているという。この評価についてどう思うか。

アルドイノCEO:(USDCが機関投資家にとって主流になっていくことについて)気にしていない。テザー社がいつまでも最大のステーブルコインである必要はない。一方で競合他社が機関投資家向けのステーブルコインにフォーカスしていることは我々にとっては良いことだ。テザーとUSDTのフォーカスする領域ではないからだ。

USDTは何億人もの人々に利用されているステーブルコインだ。私たちの競争相手はウォール街やヨーロッパの金融機関に焦点を当てている。そういった機関投資家向けの市場は(USDC)に全部あげてもよい。

我々は暗号資産はそういう人たちのためというよりは、銀行口座を持たない人々を助けるものだと信じているからだ。

暗号資産やビットコイン、ステーブルコインの唯一の存在理由は、金融サービスへのアクセスを民主化することだと信じている。

USDCはエリートのためのステーブルコインで、USDTは人々のためのステーブルコインだ。

コインテレグラフ:テザー社はFBI等と連携し米制裁リストに載っている企業や個人等の口座を凍結した。これについて、今やテザーは中立なステーブルコインではなく、米当局の恣意的な判断に左右される存在という批判が相次いでいる。

アルドイノCEO:ステーブルコインはどれも凍結機能を持っている。ステーブルコインは法定通貨が基盤になっており、法定通貨は既存の金融システム内で動いているものだからだ。

USDTは分散型のトランスポートレイヤーであるブロックチェーンを使っているが結局は、ステーブルコインは中央集権的ともいえる。もし我々が法律に従わず運営するのであれば、USDTの安定性が保証されなくなる。

ステーブルコインはビットコインとは大きく異なる。誰にも侵されない、盗まれない、神の怒りにも耐えられる暗号資産がほしいならビットコインを使うべきだ。

コインテレグラフ:あなたの友人であるサムソン・モー氏が我々の取材に対し、2024年にビットコインが100万ドルに達すると語った。ビットコイン半減期とETFの承認が重なるというのが根拠だ。この予測についてどう思うか。

アルドイノCEO:100万ドル以下の予想を言ったらサムソンに弱気といわれるだろう。

数年前まで機関投資家の多くがビットコインは犯罪者向けのものだといっていた。それが今手のひらを返し(ビットコインの流行に)に乗っかっている。そんな中でもちろん価格は重要な要素になってくる。

だが大事なのは、ビットコインの価格は、ビットコインを止める方法がないという事実を反映したものなのだ。それは断言できる。

コインテレグラフ:投機とは関係のないユースケースで普及した唯一の暗号通貨がステーブルコインだ。今後どのような新たなユースケースが出てくるか、考えは。

アルドイノCEO:2024年に生き残れないのは新たなトークン発行だと考える。素晴らしいプロジェクトをつくっていて、新しいトークンを発行するのだという人が多いが、新たな暗号資産は必要ない。もう新たなトークンは必要ない。

必要なのは暗号技術や分散化技術を使って改善できる実世界のアプリケーションや実世界のエコシステムだ。学校の先生とかミュージシャン等が日常生活で必要とするものだ。暗号技術や分散化技術を使った予約システムかもしれないし、ウーバーの競合かもしれない。

暗号技術を活用してプライバシーを強化し、仲介者を削減するという新しいドグマに基づいて構築されたなにかだ。

コインテレグラフ:そういった分散型のサービスはまだまだ普及していない。

アルドイノCEO:人々の「強欲」が理由だ。

ブロックチェーンはいまいったようなユースケースを実装するには最悪のツールだ。本当にピアツーピア型のウーバーをつくる場合、トークンは必要ない。支払いにビットコインやUSDTを使うことはできるが、新たなトークン発行は必要ない。本当にピアツーピアで、非中央集権的なものであるならば「単一障害点」がないということであり、トークンは単一障害点だからだ。

ベンチャーキャピタルは大してお金にならないものを作る必要を感じないだろう。

トークンを発行する多くのプロジェクトが米証券取引委員会の矢面に立たされている。これらのトークンのほとんどは実際には少数の人々の手に一元化されており証券である可能性が高い。

もし「絶対止められない(UNSTOPPABLE)」完璧なものをつくるのであればトークンは必要ない。強いて言えばブロックチェーンも時間がかかりすぎるから必要ないともいえる。

コインテレグラフ:そうなると暗号資産と関係なくなるのでは。

アルドイノCEO:クリプトとは暗号技術のことだ。つまりピアツーピアで、暗号技術と暗号技術の基本的な価値観、つまりプライバシーを守るための暗号技術と、自分をさらけ出すことなく真実を検証するための暗号技術だ。

暗号技術とブロックチェーン、トークンが相関しているという事実はある意味では真実だ。ただ暗号技術にブロックチェーンは必要なく、暗号技術にトークンは必要ないという意味では嘘でもある。BitTorrentはブロックチェーンではないが分散型だった。

では非中央集権的であるためにはトークンが必要なのだろうか。もちろん必要ない。ゼロ知識証明やその他のシステムを使って、自分が誰であるかを証明する暗号技術が必要なだけだ。そこが素晴らしいところだ。

<終>

編集後記:先月CEOに就任したばかりのアルドイノ氏は元々プログラマー出身で、筋金入りの「サイファーパンク」だ。サイファーパンク思想によると暗号技術を信奉するサイファーパンクのメンバーはコードを書くことが必須だからだ。彼の言葉から暗号技術を通した社会変革への情熱をひしひしと感じた。

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